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芸科生の活動

01. 『浪の下にも都のさぶらふぞ』
14年度生 音楽学系列 西脇 拓人

(1) 何を表現しようとしたのか

 古典は現代にも生きる。何千年も昔の芸術がなお現代人を魅了させるのは、普遍的に人の心を打つものを古典が持つからであろう。それはつまり、古典とは不変の人の心そのものということではないか。
『平家物語 巻第十一』にある「先帝身投※1」からも、紛争に満ちた世の悲惨さといった現代にも通じるメッセージが読み取れるが、同時にある疑問も想起させる。果たして紛争とは人が本心より望んで起こすものだろうか。経済や宗教、権威誇示などの外的要因のために紛争が勃発することも常だが、平安や美を求めることも人間の内的精神の常である。
 この作品では、紛争が起こり続けている外的世界を「浪の上」に、平安や美を貴ぶ内的世界を「浪の下」に、それぞれ象徴化させた。この対比により、生命の故郷である海のような、和やかで静かで美しい、根源的精神への立ち返りを同時に促そうと試みたのだ。

(2) それをどのように音響で表そうとしたか

 上記の対比を明確にするため、まず「浪の上」では音響編集を加えない高く荒い潮騒で現実感を、「浪の下」では低い泡の音と残響を増やすことにより非現実感を強調した。
 また作品では2つの音楽を引用した。「浪の下」における《越天楽※2》は雅楽の代表的作品であり、自然への感謝や敬愛を明らかにしつつ人間の内的世界をよく表していると思える。現実を超えた理想を描く《越天楽》は「浪の下の都」の象徴にもなり得よう。
 対して「浪の上」で引用した《翔リ※3》は能楽囃子の働事の一種で、狂気を描く物狂能や、殺生の罪を負う武士を描く修羅能で用いられる。「イヨー」や「ハ」といった掛ケ声に合わせて銃や爆弾やミサイルの効果音を挿入し、古典における現代への問題提起を明示した。

(3) 完成音響の客観的自己評価

 物語への依存度が大きな課題として挙げられよう。典拠や引用された音楽の意味などの説明をあらかじめ要する作品となり、第三者が一度聴いただけで意図が伝わるかどうかが不安である。むしろ物語のほうへ焦点が当たってしまい、制作意図が見えづらくなるのではないか。しかし逆に、典拠を持つが作品ゆえに、制作時より具体的なイメージが固まり、またそこにオリジナルな発想を付け加えることも出来た。

1 市古貞次(校訂、訳) 『平家物語 日本の古典を読む13』 2009年 小学館:p.239-p.243
2 東儀秀樹(監修) 『雅楽 天・地・空〜千年の悠雅』 トラック2 2000年 東芝EMI株式会社 TOCT-24293
3 小早川修(シテ)、一噌幸弘(笛)、成田達志(小鼓)、原岡一之(大鼓)、大川典良(太鼓) 「横道萬里雄の能楽講義ノート」出版委員会 『横道萬里雄の能楽講義ノート 囃子編』付属CD-A トラック31 2014年 檜書店

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